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サステナビリティとリセールバリュー。環境意識の高まりが「長く使えるモノ」の価値をどう変えたか

「サステナビリティ」という言葉が、ここ数年で完全に意味を変えました。10年前は理念として語られ、5年前はマーケティングの装飾として消費されていた概念です。それが今、市場価格そのものに織り込まれる経済変数へと変化しました。

「リセールバリュー通信」主席アナリストの高坂です。

国内のリユース市場は2023年に3兆円を超え、2030年には4兆円規模に到達すると予測されています。Z世代の約7割は、購入時にリセールバリュー(再販価値)を意識すると回答しています。これらの数字が示しているのは、環境意識の高まりが単なるムードではなく、需給バランスを現実に動かしているという事実です。

本記事では、サステナビリティと中古市場の関係を、データを軸に分解します。「なぜ長く使えるモノの価値が上がっているのか」「ブランドのサステナビリティ戦略はリセールバリューとどう連動するのか」「賢明な消費者はこの変化をどう利用すればよいのか」。市場を動かしている構造を、感情論を排して読み解いていきます。

3兆円を超えた中古市場。サステナビリティが押し上げた需給構造

まず、市場規模の現実から確認します。日本の中古市場は、もはや「節約のためのサブ市場」ではありません。一次流通と並ぶ規模で機能する、独立した経済圏です。

14年連続で拡大するリユース市場の数値ファクト

リサイクル通信の「リユース市場データブック」によると、2023年の国内リユース市場規模は前年比7.8%増の3兆1,227億円に達しました。2009年以降、14年連続で拡大を続けています。環境省が公表した令和6年度のリユース市場規模調査でも、2024年の市場規模は約3兆4,986億円と推計され、自動車・バイクを除いた市場でも前回調査から3.9%増加しました。

成長率の推移を、簡略にまとめます。

年度リユース市場規模(推計)前年比
2020年約2.4兆円微増(コロナ影響)
2021年約2.7兆円大幅拡大
2022年約2.9兆円拡大継続
2023年3兆1,227億円+7.8%
2024年3兆4,986億円+約12%
2030年予測4兆円超継続拡大

この14年連続拡大という事実は、景気変動や為替変動を超えた、構造的な変化が市場の底にあることを意味します。私が金融市場で見慣れた「センチメント主導の上昇」とは、明らかに性格が異なる動きです。

環境省・矢野経済研究所が示す品目別の伸び

ジャンル別の動きを見ると、サステナビリティ意識の影響がより明確に浮かび上がります。矢野経済研究所が2024年に発表した「ファッションリユース市場に関する調査」によれば、2023年の国内ファッションリユース市場(小売金額ベース)は1兆1,500億円(前年比113.9%)、2024年は1兆2,800億円(前年比111.3%)に達する見込みです。アパレルカテゴリーが2桁成長を維持している点は、消費者の「衣類は使い切るもの」という認識の変化を直接反映しています。

グローバルでも構図は同じです。米国のリセール大手スレッドアップが公表したレポートをもとに、サステナブル・ブランド ジャパンが報じた予測では、世界の古着市場は2026年までに770億ドル(約8兆4,550億円)に拡大し、2030年にはファストファッションの約2倍の規模に達すると見込まれています。新品市場が縮小しているわけではありません。中古市場が新品市場と並走するレベルまで拡大している、という点が重要です。

「使い捨て」から「資産循環」へ。市場を動かしている経済合理性

なぜここまで急速に市場が拡大したのか。理由は単純です。消費者が、モノを「資産」として捉え直したからです。

メルカリが公表した試算によれば、日本の家庭に眠る「持ちモノ資産」は推計約216兆円規模にのぼります。この巨大なストックがフリマアプリやリユース店舗を介して流動化したことで、買い手と売り手の両方が増えるという好循環が生まれました。サステナビリティへの共感は、この流動化を倫理的に肯定する役割を果たしています。

「環境のために中古を選ぶ」という動機が、「中古を選ぶことで売却時にも回収できる」という経済合理性と一致した瞬間、市場は加速します。これが2020年代に起きた本質的な変化です。

環境意識が「買う・売る」行動をどう変えたか

市場規模の拡大の裏側には、消費者意識の構造変化があります。私が証券アナリスト時代に学んだのは、「マクロの数字は、ミクロの行動の積分でしかない」という当たり前の事実でした。中古市場の3兆円も同じです。

エシカル消費の認知度推移と実践率の逆転現象

消費者庁の「消費生活意識調査」で公表されているエシカル消費の認知度推移を見てみます。

  • 2019年度:12.2%
  • 2023年度:29.3%
  • 2024年度:27.4%

注目すべきは、認知度が一定水準で頭打ちに見える一方、エシカル消費を「実践している」と回答した人は2024年度に36.1%まで増加した点です。前年度の27.4%から大きく伸びています。詳しくは消費者庁のエシカル消費に関する意識調査に公開されているデータを参照してください。

つまり、「エシカル消費」という言葉を知らなくても、リユース品を買う、修理して長く使う、不要になったら売る、という行動を取る人は確実に増えています。言葉が浸透するより先に、行動が浸透している。これは市場分析の観点では、極めて健全なシグナルです。

Z世代の7割がリセールバリューを意識する理由

世代別の意識差は、さらに鮮明です。コメ兵ホールディングスが2025年8月に公表した消費行動とリユース品への価値観に関する調査によると、Z世代(20代)の約7割が購入時にリセールバリューを意識し、特にZ世代男性では47.5%が「リセールバリューを意識して購入することが増えた」と回答しています。

注目すべき数字を整理します。

  • リユース抵抗感が「薄くなった」と回答した割合:Z世代51.3%、バブル世代33.8%
  • リユース選択理由としての「サステナブル」「自分らしさ」「他人と被らない」がZ世代で高位
  • リセールバリュー維持のために品質を保つ保管をしているZ世代:約64%(全体51%)

Z世代の特徴は、「節約だから中古」ではなく、「自己表現とサステナビリティを両立させる手段として中古」という動機構造にあります。これは、購買行動が完全に変質したことを示しています。

「リユースネイティブ世代」が需給バランスに与える影響

世代論として注目しておきたいのが、いわゆる「リユースネイティブ」と呼ばれる層の登場です。物心がついた頃からフリマアプリが存在し、中古品の売買がデジタル上で完結する環境で育った世代を指します。

この世代の消費行動は、3つの特徴を持ちます。

  • 新品購入時に「売却価格」を同時に検索する習慣がある
  • ブランドの環境配慮姿勢を、製品評価の一要素として見る
  • 「使い切ること」より「次の所有者に良い状態で渡すこと」を価値と感じる

需給バランスの観点では、この世代が市場の供給側と需要側の両方に同時参入することになります。供給が増え、需要も増える。市場規模が継続拡大する根本的な理由は、この双方向の参入にあります。

「長く使えるモノ」のリセールバリューを底上げする3つの条件

市場全体が拡大しても、すべての商品のリセールバリューが上がるわけではありません。むしろ価値の二極化は加速しています。「長く使えるモノ」が再評価される条件を、3つに整理します。

耐久性と修理可能性。EU修理する権利指令が突きつけた前提

第一の条件は、修理できることです。

EUは2024年6月に「修理する権利指令」を採択し、同年7月30日に発効しました。加盟国は2026年7月31日までに国内法へ移行する義務を負います。対象は洗濯機、冷蔵庫、掃除機、スマートフォン、PCなど日常的な家電・電子製品で、メーカーは「妥当な期間内」「妥当な価格」での修理を提供する義務を負います。修理を妨害する契約条項やソフトウェア・ハードウェア上の制約も禁止されました。

この指令が世界の製造業に与える影響は大きく、修理可能な設計と部品供給体制が、市場参入の前提条件に格上げされました。日本ではまだ法制化されていませんが、EU市場で販売する以上、グローバルに製品が修理可能になるという副次効果が生まれます。

修理可能性は、中古市場ではダイレクトに査定額に反映されます。同じカテゴリーの製品でも、メーカーが純正部品を継続供給しているブランドは、5年・10年経過後の買取相場が明確に高くなる傾向です。修理できる製品は、二次・三次の所有者まで価値を保ち続けます。

部品供給とブランド責任。Apple認定整備済とパタゴニアの戦略

第二の条件は、ブランド自身が製品ライフサイクルに責任を持つかどうかです。

Apple認定整備済製品は、返品端末や展示品を専門スタッフが整備し、新品同様の品質と1年保証を付けて販売しています。価格は新品より最大15%程度安く設定されます。重要なのは、Apple自身が中古市場のプレイヤーになっている点です。これは「リユースを敵視するブランド」と「リユースを取り込むブランド」の間で、長期的なリセールバリューに大きな差を生む構造を作ります。

パタゴニアはさらに踏み込んでいます。製品の98%にリサイクル素材を使用し、自社のリペアサービスを充実させ、米国では「Worn Wear」という中古販売プログラムも運営しています。「修理できる」「長く使える」「売れる」の三点セットが、ブランドの中核戦略に組み込まれています。中古市場でパタゴニア製品の状態が良いものが安定した相場を維持しているのは、この戦略の自然な結果です。

ESG経営とリセールバリューは、長期的に強い相関を示します。サステナビリティを経営に統合したブランドは、製品の二次流通価格までコントロール下に置く。これが新しい競争原理です。

希少性と歴史的価値。ロレックス・ヴィンテージシャネルが教える時間軸

第三の条件は、時間が価値を増幅させる構造を持っているかどうかです。

ロレックスのコレクションは、平均換金率が189%という水準にあります。新品定価より中古相場のほうが高い、という極端な現象が一部モデルで発生しています。エルメスのバーキン、ケリーも同様の傾向です。これらは「壊れない」「修理できる」「歴史がある」という3条件を満たした商品が辿る、典型的な価格曲線です。

ヴィンテージシャネルやヴィンテージグッチも、Z世代を中心とした若い層に支持され、中古市場で再評価が進んでいます。理由は、「現行品にはないデザイン」と「サステナブルな選択」という2つの価値が同時に成立するからです。「環境意識のある選択であり、かつおしゃれである」という両立が、市場で価格として評価されています。

時間軸を取り込めるブランドは、サステナビリティ時代の勝者になります。逆に、毎シーズン使い捨てを前提に設計された商品は、中古市場で価格を維持できません。これは構造的な分岐です。

ブランドのサステナビリティ戦略は買取相場とどう連動するか

中古市場の拡大は、一次流通企業のビジネスモデルそのものを変えつつあります。「新品を売って終わり」のビジネスは、もはや成立しなくなりました。

一次流通企業のリユース参入が示すゲームの変化

近年、アパレルや家電の一次流通企業が、自社で中古品の買取・販売を始めるケースが増えています。背景には、SDGsやESG経営への対応という外圧と、もうひとつ重要な内発的動機があります。中古市場の3兆円が、すでに無視できない規模になっているという事実です。

一次流通企業がリユースに参入することで、3つの市場変化が起きています。

  • 中古品の品質保証水準が上昇する
  • 純正修理・整備のチャネルが広がる
  • ブランド側が中古相場の動向を直接モニタリングするようになる

つまり、ブランドは中古相場を「コントロールすべき経営指標」として捉え始めました。新品を販売した瞬間に手放す資産ではなく、ライフサイクル全体で価値を管理する対象になっています。

ESG経営とリセールバリューの相関

ESG経営とリセールバリューの関係を、もう少し具体的に見ます。

ESG経営の3要素は環境(E)、社会(S)、企業統治(G)ですが、リセールバリューに最も直結するのはE(環境)です。具体的には、製品の素材選定、生産プロセスの透明性、修理対応、リユース・リサイクルへの関与といった項目が、中古市場での評価に反映されます。

たとえば、家具・インテリア領域では、ハーマンミラーやヴィトラなどデザイナーズブランドの製品が、新品定価の50〜70%という高い水準で買取されることが珍しくありません。これらのブランドは、製造プロセスの環境配慮、長期保証、純正部品供給を統合的に管理しており、結果として中古市場でも価格が崩れにくい構造を持っています。

腕時計、バッグ、家具、家電。カテゴリーは異なっても、サステナビリティ戦略を経営に統合したブランドの製品は、中古市場で安定した評価を得ています。

「修理できないブランド」が今後直面する評価リスク

逆の視点も重要です。修理できない製品、部品供給が短期で打ち切られる製品、そもそもリユースを想定していない製品は、今後さらに厳しい評価にさらされます。

EU修理する権利指令の波及、Z世代を中心としたサステナビリティ重視の購買行動、中古市場の流動化。この3つが同時進行することで、「使い捨て前提のブランド」が市場から退場するスピードが加速しています。

これは投資判断のロジックと同じです。フローではなくストックで価値を測る視点が、消費の世界にも完全に持ち込まれました。「いま安く買える」より「5年後にいくらで売れるか」が問われる時代に、私たちは突入しています。

サステナビリティ時代に価値が落ちにくいモノを見極める視点

ここまでの分析を踏まえて、実践的な視点を提示します。これからの消費行動で、リセールバリューが落ちにくいモノを見極めるためのチェックリストです。

購入時に確認すべき5つのチェックポイント

私が実際に新製品を購入する際、必ず確認している5つの項目があります。

  • そのブランドが純正修理サービスを提供しているか
  • 部品供給の保証期間が明記されているか
  • 環境配慮(素材・製造プロセス)の情報が公開されているか
  • 中古市場で過去3年間、相場が安定しているか
  • ブランド自身が認定整備済プログラムやリユース事業を運営しているか

5項目のうち3つ以上に該当すれば、長期保有でも価値が大きく毀損するリスクは低いと判断できます。逆に、どれにも該当しないブランドの製品は、購入時点で「使い切る」覚悟が必要です。

売却タイミングの判断軸

サステナビリティ時代の売却タイミングは、これまでとは少し異なります。「壊れる前に売る」「飽きる前に売る」という従来の発想に加えて、「市場全体の関心が高まったときに売る」という視点が重要になりました。

具体的な判断軸は3つあります。

  • 後継モデルが発表される前後で相場の天井が来やすい
  • ブランドのサステナビリティ施策が話題になったタイミングで需要が伸びやすい
  • 季節性のあるカテゴリー(アウトドア、季節家電など)はシーズン直前が高値になる

需給を読むという考え方は、株式や為替の世界では当然です。中古市場でも、同じロジックが完全に通用します。

消費を「投資」に変える思考法

最後に、思考のフレームワークについて触れます。

サステナビリティ時代の賢明な消費とは、「使い切るための支出」を「価値を保有するための投資」に変える思考です。新品購入時に売却価格を予測し、保有期間中の利用価値を引いて、トータルでのコストを算出する。これだけで、消費の質は劇的に変わります。

修理して長く使うこと、売却して次の人に価値を渡すこと、購入時にリセールバリューを意識すること。この3つはすべて、環境負荷を下げる行動であると同時に、家計に直接的な経済合理性をもたらす行動でもあります。

サステナビリティと経済合理性は、もはや対立軸ではありません。同じコインの表裏です。Z世代の購買行動が示しているのは、「環境のために我慢する消費」ではなく、「環境にも家計にも合理的な消費」が成立するという事実です。

リペアカフェの広がり、循環経済への移行加速化パッケージといった政策の進展、ブランド側のサステナビリティ戦略の本格化。これらの動きは、すべて同じ方向を指しています。詳しくは環境省の使用済製品等のリユース促進についてで公開されている政策資料も参照してください。

まとめ

サステナビリティは、環境への配慮という倫理から始まり、いまや市場価格そのものに織り込まれる経済変数へと進化しました。本記事で確認した主要なポイントを整理します。

  • 国内リユース市場は14年連続で拡大し、2024年に約3.5兆円規模、2030年に4兆円規模が視野に入っている
  • Z世代の約7割がリセールバリューを意識しており、エシカル消費の実践率は前年から大きく伸びた
  • 「修理できる」「部品供給がある」「ブランドがサステナビリティを経営に統合している」製品が、中古市場で価値を維持する条件を満たしている
  • ロレックス、エルメス、パタゴニア、Apple認定整備済など、サステナビリティ戦略を経営の中核に据えたブランドの製品は、安定した中古相場を実現している
  • 消費を「投資」と捉え直し、購入時に売却価格を予測する思考が、賢明な消費者の標準になりつつある

市場は常に、需要と供給のバランスを映し出す鏡です。その鏡が映し出している現実は、「長く使えるモノの価値が、確実に再評価されている」というシンプルな事実です。次に何を買うか、いつ売るか、どう保管するか。その判断の質が、あなたの資産価値を決めます。

データに基づいた合理的な選択を、ここから始めてください。

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